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大阪地方裁判所 昭和55年(わ)1313号 判決 1980年8月27日

被告人 杉本こと[木久]本博嗣

昭三三・一一・七生 調理士

山本光弘

昭三三・九・一六生 喫茶店経営

主文

被告人両名をそれぞれ懲役五月に処する。

被告人両名に対し、この裁判が確定した日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、いずれも暴走族狂神会員であるが、同狂神会長姜隆信及び同会員西尾光雄、同金沢こと金英徳並びに他の狂神会員ら多数と共謀のうえ、いわゆる集団による暴走行為を企て、昭和五四年一二月九日午前一時四五分ころ、被告人[木久]本において、普通乗用自動車を運転し、被告人山本において、右姜らと共に右車両に同乗したうえ、他の狂神会員ら運転の普通乗用自動車及び自動二輪車二〇数台とともに自動車を連ね共同して、大阪市北区堂山町一七番一四号付近道路を東から西に向かい轟音を発するなどして時速約六〇キロメートルで進行し、進路上を先行していた片淵源太郎ほか二名運転の普通乗用車に急接近して避譲させ、更に同町一七番八号先交差点の対面信号が赤色(止れ)を表示しているのに同交差点に進入し、折から信号に従つて同交差点を北から南に進行してきた数台の車両を急停止させて同車の進路を妨害し、よつて共同して著しく他人に迷惑を及ぼすとともに著しく道路における交通の危険を生じさせたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

該当法条

被告人両名につき、刑法六〇条、道路交通法六八条、一一八条一項三号の二(被告人山本につき、刑法六五条一項を併せ適用。)

刑種の選択

所定刑中いずれも懲役刑選択

刑の執行猶予

刑法二五条一項

(当裁判所の判断)

被告人山本の弁護人は、同被告人は、相被告人[木久]本運転車両後部座席に同乗していたにすぎず、本件集団暴走行為に関する謀議に参加していなかつたのはもちろん、具体的指揮もとつていなかつたのであるから、道路交通法六八条、一一八条一項三号の二にいわゆる共同危険行為等の禁止規定違反の罪(以下共同危険行為の罪という)の共同正犯は成立しない旨主張する。

共同危険行為の罪は、その行為主体が、二人以上の自動車又は原動機付自転車の運転者に限定されているから、刑法六五条一項にいう犯人の身分により構成すべき犯罪に該るものと解される。そして、右の罪は、道路における他の車両若しくは歩行者に具体的危険を生じさせ、又は他の車両等の通行を故意に妨げて通行の自由を奪うなど具体的な迷惑を生じさせることを要件とする具体的危険犯であつて、その保護法益は、道路における他の車両等の通行の安全及び自由にあるものと解されるところ、前記自動車等の運転者たる身分のない物も、右身分のある者の行為を利用するという間接正犯的形態によつて前記具体的危険を惹起させ、その保護法益を侵害することが可能といべきであるから、身分のない者が身分のある者と共謀してその犯罪行為に加功した場合は、刑法六五条一項により、身分のない者にも共同危険行為の罪の共同正犯が成立し得るものと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに前掲各証拠によると、被告人山本は、かねてより暴走族狂神会員であつたところ、昭和五四年一〇月ころから右狂神豊津支部の事実上の責任者となり、毎週木曜ごとに右狂神ら暴走集団の幹部が集合して開かれる幹部会に出席し、具体的な集団暴走行為の日時、場所等その計画謀議に参画してきたこと、これら集団暴走行為に参加する際、被告人山本は、自ら自動車等を運転することは少く、他者運転車両に同乗することが多かつたが、その理由は、専ら、自己の有する運転免許が停止若しくは取消になることを危惧した点にあり、自らは、集団暴走行為によるスリル、興奮等を享受せんとする積極的意図のもとにこれに参加してきたこと、そして、本件集団暴走行為に先立つ昭和五四年一二月七日にも、被告人は、他の暴走集団幹部らと共に喫茶店「フレンド」に参集し、集団暴走の具体的日時、場所等を謀議したうえ、これまでと同様、集団暴走行為によるスリル等を享受せんとする積極的意図のもとに、前記狂神会長姜隆信らと共に相被告人[木久]本運転車両に同乗したうえ本件集団暴走行為に参加するに至つたものであることが認められ、これら被告人山本の暴走集団内における地位、謀議への参画の程度、相被告人[木久]本運転車両へ同乗し、本件集団暴走行為に加功するに至つた動機等を総合するに、被告人は、自動車等の運転者たる身分を有していないとはいえ、右身分を有する相被告人[木久]本らと共謀のうえ、本件集団暴走行為に加功したものと認めるのが相当である。

従つて、被告人山本については、刑法六五条一項、六〇条により、共同危険行為等の罪の共同正犯が成立するものというべく、前記弁護人の主張は採用できない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 那須彰)

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